残業代対応FAQ

固定残業代(みなし残業)の金額はどのように決めればいいですか?

 固定残業代(みなし残業)の導入が決まった場合、時間外・休日・深夜労働時間数の実態調査を行います。時間外・休日・深夜労働時間数の実態と固定残業代(みなし残業)の時間数の乖離が大きいと、固定残業代(みなし残業)が残業代の実質を有するかという論点において、これを否定する方向に働く一要素となります。他方、実態調査を行い、その結果に基づいて固定残業代(みなし残業)の時間数を設定した場合、時間外・休日・深夜労働時間数に応じて金額が定まるという割増賃金の性質に合致しますので、割増賃金の実質を有すると判断されやすい方向に作用します。
 時間外・休日・深夜労働時間数の実態調査が終わったら、調査結果に基いて固定残業代(みなし残業)として支払う時間外・休日・深夜労働時間数を決定します。
 固定残業代(みなし残業)の時間数の設定に関し、「何時間分の固定残業代(みなし残業)までなら安全ですか。」という質問を受けることがあります。裁判例の中には限度基準を参照して、1か月45時間を基準にしているかのようなものも見受けられますが、理論的には何時間分の固定残業代(みなし残業)までなら安全といえる基準はありません。
 時間外・休日・深夜割増賃金は、原則として、時間外・休日・深夜労働時間数に比例して支払われることが想定されているのに対し、固定残業代(みなし残業)を導入した場合、固定残業代(みなし残業)額に達するまでは、現実に支払われる割増賃金額と時間外・休日・深夜労働時間数との間の比例関係が切断され、支払われるべき割増賃金額が固定残業代(みなし残業)額を超えた時点で比例関係が復活することになります。固定残業代(みなし残業)が割増賃金の実質を有するかは、原則的な計算方法との乖離の程度、比例関係切断の程度が大きく影響してきます。原則的な計算方法との乖離の程度、比例関係切断の程度が小さい固定残業代(みなし残業)であれば割増賃金の支払として認められやすいですが、乖離の程度、比例関係切断の程度が大きければ大きいほど、割増賃金の支払とは認められにくくなります。固定残業代(みなし残業)の時間数が長時間になればなるほど、原則的な計算方法との乖離の程度、比例関係切断の程度が大きくなりますので、割増賃金の実質を有しないと判断されるリスクが次第に高まっていくことになります。
 固定残業代(みなし残業)として支払う時間外・休日・深夜労働時間数を決定したら、固定残業代(みなし残業)として支払う金額を計算します。
 仮に、時間外割増賃金の時間単価が1,625円の労働者に関し、35時間分の時間外割増賃金を固定残業代(みなし残業)とするのであれば、1,625円×35時間=56,875円を「時間外勤務手当」等の名目で固定残業代(みなし残業)として支給します。
 上記事例では、固定残業代(みなし残業)の金額に端数が生じていますが、敢えて、端数を残したままの固定残業代(みなし残業)とすることが多いです。なぜなら、労基法・労基法施行規則に基づいて計算した時間外割増賃金の時間単価に、実態調査を踏まえて決定した時間外労働時間数を乗じて計算した金額に1円単位まで一致している「時間外勤務手当」であれば、時間外割増賃金の実質を有していると推認できるからです。計算式を示すなどすれば、端数処理して切りのいい金額にしたら直ちにダメというわけではないのですが、端数を残したままの固定残業代(みなし残業)の方が時間外割増賃金の実質を有していることの立証がしやすいことは明らかです。
 このような方法とは逆に、まずは〇万円等と固定残業代(みなし残業)の金額を決めてから、何時間分の割増賃金に相当するのかを後から計算して、時間数を明示するやり方がよく見られます。例えば、時間外割増賃金の時間単価が1,625円の労働者に関し、固定残業代(みなし残業)の金額を50,000円に決めてから時間単価の1,625円で除し、50,000円が約30.77時間分の時間外割増賃金相当額であることを確認します。そして、50,000円の固定残業代(みなし残業)を「労働者に有利に」30時間分の固定残業代(みなし残業)である旨、明記するわけです。このやり方は、直ちに労基法37条に違反するとはいえないかもしれませんが、いかにも「残業代請求対策」を行っているように見えがちです。また、固定残業代の金額が、時間外割増賃金の時間単価に想定される時間外労働時間を乗じた金額と一致しませんから、時間外割増賃金の実質を有しないと認められやすくなる方向に作用することになります。固定残業代(みなし残業)を切りの良い金額にする場合は、最低限、計算式を明示するなどして、あくまでも時間外割増賃金の時間単価に想定される時間外労働時間を乗じて計算したものの端数を調整したに過ぎないことが客観的証拠から分かるようにしておくことをお勧めします。